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ロボットからの倫理学入門 読書感想文

久木田,神崎,佐々木「ロボットからの倫理学入門」を読んだ

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何故この本を購入して読んだのか?

  • 久木田先生が,初の著書?(翻訳などはあったと思うが)を出されたとのことで,これは買わなければならないという使命感があった

  • 本を買うということについて:在野の人間(会社勤めの非研究職)が,アカデミアの方を支える最も簡単かつ自身にもメリットがある方法は,著書を出された際に,新書を購入することでしょう.積極的に本を買いましょう😄

    • 学生さんは,所属する学校の図書館に購入リクエストを出すことで,同等のことが行えると思います 😊
    • 一方で,その研究者のつぶやきや(難しい論文でなくとも)公開資料などを見ることで,我々は無料でメリットを得られる
    • 最近では,OCWで,授業をまるごと聴講できたりもするので...素晴らしい時代になった
  • また,久木田先生も参加された,ロボットやAIに関連した倫理についての研究会(一般参加も可能なもの)に参加したこともあり,元から興味がある内容ではあった

  • もっといえば,そもそも倫理一般に最近興味があった

    • #余談ですが,自分は徳倫理派(徳倫理のある種直感的?な部分が好きです)

本の紹介

  • 目次なんかは,出版元の名古屋大学出版の情報

  • 冒頭(iP)に以下のようなことが書かれている

    本書のねらいは二つあります.ひとつは倫理学に初めて触れる読書を対象に,ロボットを通じて人間の倫理・道徳について考えてもらうことです. もうひとつは,ロボットや人工知能(AI)に携わる人々(研究者,メーカー,ユーザなど)が,関連する倫理的問題について考え議論するための土台を提供することです.

  • 繰り返し,倫理学に初めて触れる読者を対象にしているという記述があるので,「入門」であることは強く意識されている感じ(自分は初学者なのでよかった)

  • AI・ロボットというのはホットな話題という以上に,不可避的に人間それ自身の投影であったり,人間とは少しだけ違うが(理論的)一般化によって同じ権利を有する可能性がある対象 という性質がある

    • これが,本書の話題展開の一つの柱になっている感じがあり,そこが本書の面白さの肝な気がする
  • SNSや,現代の監視社会のように,AI・ロボット固有だけではない,現代社会が抱える問題の倫理的議論もちょっとだけ紹介されている

    • 例1: 情報技術の発展に伴って生まれたソーシャルサービスによる,現実の他者への配慮欠如可能性(第5章)
    • 例2:プライバシーの重要性と,プライバシーが保証された社会がもたらすメリットについて(第6章)

本書の良い点など(本の紹介と若干内容被るかも💦)

  • まず一番強く感じたのが,文章が洗練されていて,読みやすくわかりやすいのに,隙がない(ということの意味は後述)文体

  • 具体的な最新の事例(テスラ・モーターズ社の死亡事故や,ソーシャルロボットの例としての Jibo など)が豊富

  • ある倫理的な概念を解説するときは,必ず実例が伴われているので,謎抽象論に置いてきぼりにならない

    • 議論の起点が,実際に起きている問題が中心だから
    • 例:AIBOによる癒やしは欺瞞なのか? など
  • 各章のまとめが本当にうまい.まとめを読んだときにその章の内容が鮮明に思い出される&整理されるので,本当に凄い.

  • 前提を明確に述べ,前提が成り立つならばこういう倫理的社会的問題が浮かび上がるよね という書き方,あるいは,こういう観点ではこれこれの可能性がまだ排除できないよね という書き方がされているので,内容が正確(これが隙きがないと感じる文体)

    • 例1.82P : 現代の自由意志論を基盤とした責任論の観点から見ると,ロボットへの責任帰属が原理的に排除されない可能性があることを確認しました.

    • 例2.98P : では,どのような条件がそろったら,ロボットが道徳的被行為者とみなされるべきだという主張が真剣に検討されるようになると考えられるでしょうか.

  • そのため,テレビ等の談義にはありがちな,荒唐無稽な警告や問題提議はされない(大学の先生方が書かれたもなので当然ですが…)

    • 余談:なんか,「 Aという可能性が排除されない かつ AならばB」を 「AかつB」だ大変だみたいな取り上げ方されることが多い気がする > AIやシンギュラリティ周辺

もう少し議論や改善が欲しかったところなど

  • 実際は,ものごと(特に科学技術と社会等)はトレードオフで,様々な泥臭い判断がされる(例:車社会と交通事故).その泥臭い議論こそ今まさに必要があるものに思えるが,そこが omit されているように感じた(ただし,そこはこの本の目的とそもそも違うという話かもしれない)

  • 具体的に新しい製品や技術が紹介されていることは,わかりやすさや発見がある反面,5, 10 年後ぐらいには本が古く感じる要因かもしれない

  • 電子書籍で買えば別だけど,紙媒体だと,参考情報(文献?)としてURL載せられても参照が難しい(最新のニュースやトピックが題材にされているので,URLの参照が多い気が)

  • 個人的には,ロボットを傷つける(廃棄含め)場合の人間側のストレスや葛藤みたいな問題も知りたかった.

    • 個人的に大好きな映画 A.I. でのロボット虐殺シーン(これは,明らかにユダヤ人であるスピルバーグが人間同士で起きた事のメタファーとして表現したと思っている)が,AI・ロボットの倫理問題で真っ先に思いつくイメージだったので(トラウマ級に嫌な気持ちになったシーン…プライベート・ライアンよりもきつかった)
    • これは ,P91 で述べられている,ロボットをぞんざいに扱う事がいずれ人間To人間でも同じ様に…,徳倫理的に… という話とは別の意味合いで,例えば,刑務官の死刑執行時の心理的負担に近いような話が,割りと喫緊の問題としてあるのではないかという意味(A.I. で言えば,デイビットをリンチすることに嫌悪を感じた群衆の真理)
    • 倫理というよりは,社会問題に近い側面の話かもしれないが
      • 余談ですが,A.I. は本当に好きな映画で,デイビットがブルーフェアリーに祈り続けるシーンは,私の観た映画の中で一番美しいシーンだと思っています.外延的にはチープなのに,その内延がすごく崇高なものは本当に美しいです

印象に残った箇所

  • 4章,7章の議論が特に印象に残った

  • 4章では,ピーター・シンガーの種差別の理論を紹介し,ロボットが道徳的被行為者(簡単に言ってしまえば,人道的扱いの対象)になりうる可能性があることを述べており,そこは目からウロコであった

    • 苦痛を感じる能力も恣意的な線引き,つまり,苦痛を感じえないモノだから道徳的被行為者にならないというのは差別的では?という議論は,モヤモヤを感じつつも,認めざる得ないな〜と思った
  • 7章で少し議論される,機械によって殺されるということが,人間の尊厳を傷つけるという話は,すごく生々しい恐怖を感じた(例えば以下に引用する話など)

    • 158P: イスラエル無人飛行機に苦しめられているレバノンのある市民は,「何故か無人偵察機のほうが有人のF16よりも「もっと頭にきた」」と述べたそうです

    • 以前,久木田先生に,「共感みたいなある種の道徳的行動にはコスト(ある種の自己犠牲)が生じ,それが倫理的であることの一端であるように感じます.ですが,AIやロボットには…」と質問したことがあった.
    • その時頂いた回答の一部に,上記の非人間的なロボット兵器の話もあり,「軍人はある意味,人の命を奪う生き方という選択を背負ってきた人だが,ロボットだと…という批判も勿論あります」ということを教えてもらった
    • その時のこともあってか,ロボット(AI)兵器というものについては強く印象にのこっている.

備考

  • あとがき(P182) で以下の記載があるが

本書は次のような分担で書かれています.草稿を書き上げたあとで,お互いの文章を読み合いながら,執筆者間で何度も議論を重ねました.

はじめに,1章,5章,7章:久木田
2章,4章,8章:神崎
3章,6章:佐々木

共著だけど,だれがどこを記述したかは182Pまで明にならないので,目次や章末に情報があってほしかった気もしたので引用 (文体がすごく統一されていた感じがして,基本的には同じ人が書いた文章に感じていたので,分担されていたことには驚き)

総評

  • 基本的に,本の紹介で述べた<本書の対象者>にあたる方が購入することはオススメします

    • 倫理学を専攻していた人とかは物足りない内容かもしれない(そもそも入門本の対象者ではないが)
  • 内容も然ることながら,文体とか,文章の構成がすごくいいのもポイント

  • 倫理学を学ぶという面でも十分役に立つが,最新のAIやロボット技術の話題でも目からウロコな部分はあるので,その意味でもオススメ(例えば,エンハンスメントの話とか,前述のAIロボット兵器とか)


なんか漫然と文章を書いてしまいましたが,論文でも課題でもなんでもない,個人のブログなのでお許しを...

次回は,別の本(これもまた,人間ーAI の構図.厳密にはAIの部分はチューリングマシンかな?)の紹介をする予定です.

それでは✋